【女性向けボイス】ハッピー野郎「俺はどこだっていいぜ。だって、お前とならよ――。」



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台本

(車の走行音)
(ブレーキ音)
(ドアをひらく音)
おお、おまたせおまたせ! 待ったか? 待ったよな。三十分も遅刻しちまったんだもんな。

わりーわりー、靴下のかたっぽが全然見つからなくてよ! 四十分さがしても見つからなかったから、諦めて別の靴下履いてきた。いやー、靴下どこ行っちまったんだろうな。お前、知らねぇ?

…そっかー、知らねぇかー。空き巣にでも入られたのかもしんねぇなー。盗まれたのかも。
あっ、そうそう。お前、今度誕生日だろ?

え、なんでいきなりそんなこと訊くのかって?
いや、靴下さがしてる途中で思い出してよ。忘れねぇうちに、お前の欲しいもん訊いとこうと思って。

で、なんか欲しいもんあるか?
…デリカシーのある彼氏?
またまた、お前は。そういうこと言っちまって。
でも、わかってるぜ。お前のそういう、素直じゃねーとこ。

お前の冷ややかな眼差しも、無慈悲な台詞も、ぜーんぶ愛情の裏返しだもんな。
俺にはわかるぜ。ずっと一緒にいるからな。
…ああ、ほら。その氷みたいな瞳。
俺がドMだから、そういう目で見てくれるんだろ?

ぞくぞくするよ。さぁ、車に乗れ。
そして助手席から俺を絶対零度の眼差しで見つめ続けていてくれ。
お前ほど無情な視線を注いでくれる女も、なかなかいねぇ。
俺にはお前だけだ。お前は最高の女だよ。

今度、サプライズで誕生日パーティー開いてやるからな。楽しみにしとけよ。
…え? しゃべっちまったらサプライズにならねーって?
考えてみりゃ、そーだったわ。今の忘れてくれ!

(ドアが閉まる音)
(車の走行音)
なんか音楽流すか? お前にぴったりの曲、この前仕入れたんだよ。
ピアノのソロの、なんか寒々しい曲。

俺、最近寝るときにいっつもこれ流すんだ。
そしたら、お前に虐げられてるような気分がして、気持ちよく眠れる。
…じつは昨日、夢の中にお前が出てきた。
ははっ、なんかこういう話、ちょっと恥ずかしいな…。

お前に…踏まれる夢だった。ヒールで踏まれるのって痛そうなイメージだったんだけど、案外悪くねぇんだな。
それとも…お前だったから…かな…。
俺を踏んでくれたのが、お前だったから、俺…。

っはは、なんでもねぇ。なんか恥ずかしい話、しちまった。
どこ行く? 俺が三十分遅刻しちまったから、もう映画、間に合わねぇな。
そういや、この前、暇潰しに映画館のぞいたらよ、子供向けの映画やってたから、ちょっとなつかしくなって観てみたんだよ。

あれだよ、あれ。空飛ぶアンパンが困ってる皆に自分の顔食わせるアニメだよ。
悪いバイ菌はパンチで仕留めて黙らせるに限るっていう大事なこと、ああいうアニメは教えてくれるんだよな。
俺達は、大人になってから色々と悩むことや迷うことが増えたけど、でも、本当はそこまで深く考えることでもねぇのかもしれねーよな。

だって、俺らは皆、子供の頃にアンパンから教わってるはずなんだ。
「気に食わねぇやつは、こぶしで黙らせろ」って…。
正義が勝つんじゃねぇ。勝ったほうが正義なんだ。
ガキの頃、教わってたはずなのに…大人になるにつれ、忘れていってたんだな…。

あの映画で、俺はその大切なことを思い出したよ…。
なぁ…今度さ、ふたりでアニメの映画、観にいってみねぇか?
大人ふたりでアニメなんて、ちょっと恥ずかしいけどよ。でも、子供の頃の気持ちを思い出すのも、悪くはねぇと思うんだよ。

ほら、たしか今あれやってるだろ。あの、青いタヌキの映画。
子供向けの作品ってよ、観てると単純にワクワク出来るんだよなぁ。
大人になってから心底ワクワクすることなんか、なかなかねぇんだからさ。
だから、その…お前と一緒にそういう映画観て、一緒にワクワクしてぇんだよ。ガキみたいにさ。

俺、今でも家族や友達から「びっくりするほど成長がない」ってよく言われるんだけどよ、それでも子供の頃は、もっといろんな夢見てたし、ワクワクしてたし、毎日がキラキラして見えてた気がするんだよ。

でも成長していくと、現実ってもんが、わかってくるんだよな。
子供の頃、世界がキラキラして見えてたのは、世界の汚い部分を知らなかったからなんだ。綺麗な部分しか見えてなかったから、だから輝いて見えたんだ。

世界の汚い部分を知るたびに「ああ、こんなもんだったのか」って心が冷めていって、現実と折り合いつけるようになって、諦めて、そうしてるうちに、また心が冷めていってさ。

いろんなことを知ったら知っただけ、ガキの頃の感覚が薄っぺらくなっていく。
あの頃キラキラして見えたもんは、もうキラキラして見えねぇし、あの頃ワクワクしたもんにも、今はもうワクワク出来ねぇ。

大人になってから知った楽しみってもんも、もちろんあるけど…子供のときのあの感覚とは、また違うんだよなぁ。ま、当然だけど。
だからよ、お前と一緒に、そのガキの頃みてぇな感覚をまた味わいてぇんだよ。
一緒に青いタヌキの映画観てさ、あんなこといいなぁ、出来たらいいよなぁなんて、夢ふくらませてぇわけだよ。

…なぁ、俺いま変なこと言ってる?
…そこは嘘でもいいから否定しろよ。
まぁ、お前のそういう無慈悲なアンドロイドみたいなところ、わりと好きだけどよ。

…俺な、基本的に楽しいこと、好きなんだよ。
ガキの頃から、ずっと。楽しいこと好きで、楽しいことやりたくて、ここまで来た。
でもよ、このスタンスって、なんか周りのやつらに怒られてばっかなんだよ。

楽しいことが好きなのって、悪いことか?
だって人生ってよ、楽しむためのもんだろ? 苦しむためのもんじゃねーだろ?
苦しいもんは付き物だから、我慢しなきゃなんねーのか?
我慢すんのが当たり前な、そんなもんなのか?

苦しいこと我慢すんのが当たり前の人生って、楽しいのか?
それって、キラキラしてんのかよ? ワクワクすんのかよ?
キラキラしてワクワクする人生送りたいって考えんのは、そんなにアホみたいなことなのか?

…あー、わりぃ。今のはちょっと、愚痴だったな。わりーわりー。
…ん?
…私と一緒にいる時間は、キラキラしてワクワクするのか、って?

…っふ、俺、さっき言ったろ。楽しいこと、好きなんだよ。
お前と居んの、けっこう楽しいぜ。考え方が真逆すぎて、なに話しても面白いんだよ。

それに俺、自分で言うのもなんだけど、一緒にいてつまんねぇ相手には、正直にそれ言うぜ。
そうやって今まで何回、女に顔ぶっ叩かれたことか。なんで普段非力ぶってる女に限って、殴ってくるときのパワーすげぇんだろうな。俺、騙されてたのか?

…ま、だからよ。俺、お前と一緒に居んの好きなんだわ。
俺こういう男だし、遅刻するし、よく靴下かたっぽ無くすし、女褒めんのも全然うまくねぇけどよ。
これでも、お前のことは全身全霊で愛してるつもりなんだぜ。

…あ、信号赤に変わった。お前、顔貸せ顔貸せ。
(リップ音)
…へっへっへ。今日はまだしてなかったもんな。

どうする? どうせ映画もう間に合わねぇから、遊園地にでも予定変更するか?
あー、でも今なんか魚食いたい気分だから、水族館ってのもアリだな。
いっそのこと、山登りにでも行くか?

俺はどこだっていいぜ。だって、お前とならよ――。
(笑い声)
――どこだって楽しいからさ。



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