台本
(走ってくる足音)
ごめーん! 遅くなっちゃった!
(荒い息)
待たせちゃったよね、ごめんね…!
目覚まし時計もセットしたし、スマホのアラームもセットしたんだけど…その…うまく起きられなくて…。
初めてのデートで遅刻するなんて、最低だよね。ほんとにごめん…。
…許して…くれるの?
でも、僕…。
…ち、遅刻してくると思った、って…。ひどいよぉ…。たしかに、朝には弱いけど…。
って、実際に遅刻してるんだから、反論できないや…。
…昨日はよく眠れたかって?
えっと…じつはね…。
緊張して…あんま、寝れなかったんだ…。胸がドキドキして、それがいつまで経ってもおさまらなくて。
早く寝なきゃいけないってわかってたんだけど、寝なきゃって思えば思うほど、目が冴えちゃって…。
…わ、笑うことないでしょー!
朝、起きて時計見たとき、僕がどれだけ蒼褪めたか…。この世の終わりみたいな気分だったよ。
…大袈裟なんかじゃないよ。本当にそう思ったんだから!
…怒ってないの? …ほんとに?
…そっか…よかった…。
あっ、あそこでかき氷売ってるよ。待ち合わせに遅れちゃったお詫びに、僕おごるね。
…いいよいいよ、せめてこれくらいのことはさせて。
さ、他のひとが並ぶ前に、早く買っちゃおう。僕、なんの味にしよっかなー。
【間】
外でこんなふうにかき氷食べるなんて、久しぶりだよ。
家で食べるのと外で食べるのじゃ、なんか違うふうに感じられるから不思議だよねー。
…ん? 僕のはレモンだよ。そっちはブルーハワイだっけ?
あはは、君の舌、真っ青になってる!
…え、僕の舌も黄色になってる? えー、ほんとに?
んん…自分の舌は見えないや…。
…たしか、青と黄色って、混ざったら緑色になるんだよね…。
ってことは、僕の舌と君の舌がくっ付いたら、やっぱり緑色になるのかな…。
…って、ごめん! 今すっごく変なこと言っちゃった! 忘れて!
ほんと僕なに言ってんだろ。気持ち悪いよね、こんな。
ほんっとにごめんね。なんか初めてのデートでドキドキして、調子がおかしくなってるみたい。
…おかしくなんかない、って?
…なんで、そんなに優しいの? そんなに優しくされたら僕、もっともっと君のこと、好きになっちゃうよ…。
ただでさえいっぱいいっぱいなのに、これ以上に好きになったら、僕、どうにかなっちゃうかもしれない…。
…あのね、実を言うとね、君に告白したとき、ぼく振られるとばっかり思ってたの。
こういうこと言ったら友達にも意外に思われるんだけど、僕、けっこうネガティブだし。なんていうか…自分に自信が持てないっていうのかな…。
でも君のことが好きで好きでどうしようもなくて、諦めきれなくて…でも、自分に自信がなくて。
だから…こんなこと言ったら失礼なのかもしれないけど…玉砕覚悟だったんだぁ。
告白もしないまま君を諦めたら、絶対に未練が残ると思った。…ふふ、自信がないくせに、諦めだけは悪いんだよね。厄介な性格だなって、自分でも思う。
だから、どうせ諦めるなら、きっぱりと振られてから諦めようって決めて、告白したんだ。
…君にOKもらったときは、世界がひっくり返ったみたいな気持ちだったよ。夢かなって、何度も思った。
…君は、明るくて、優しくて、すごく眩しい。自信のない自分がなさけなく感じられるくらいに…眩しい。
だからね、その…君を見てると、僕ももっと頑張らなきゃって気持ちになるんだ。頑張らなきゃって…もっと、頑張りたい――って…。
そういう意味でも、君とお付き合い出来てよかったなって、思うんだ。
えへへ、なんか、言ってることめちゃくちゃになってきちゃったね。
つまり、その…。
…僕、君を幸せにしたいって、思うんだよ。
僕みたいなやつが「幸せ」なんて大それた言葉つかうの、変かもしれないけど…でも、本当に、僕は君を幸せにしたいって、心の底から思ってるんだ。
だから、あの…っ。
ぼ、僕に、幸せにされてくれませんか…?
…あれ? なんか、日本語おかしい?
幸せにされ…んん…?
…ち、ちょっと、笑わないでよぉ…!
…ほんと? 迷惑とかじゃ、ない…?
…そっか…。えへへ…。
って、ああーっ! かき氷溶けてる!
食べなきゃ食べなきゃ! 半分ジュースみたいになってる!
…っふ、あははっ。せっかく買ったのにー。
…あーあ、手がべたべたになっちゃったね。あっちへ手、洗いにいこうか。
(足音)
…あ、あのさ…。
ちょっとだけ、目、瞑ってくれる…? ちょっとだけで、いいから。
【間】
(リップ音)
…えへへ…。
ぼ、僕の、初めてのちゅー、です…。
…え、君も初めてだったの?
そ、そうだったの…。
…そっか…。…へへ、そっかぁ…!
…あっ、じゃあ、もっとちゃんとした流れでしたほうがよかった、のかな…?
…それは、次回…?
…じ、次回かぁ…。
え、あ、ううん、なんでもない。なんか、今更ながら急に恥ずかしくなってきちゃって…。
…わ、笑うことないじゃない…!
…ん? …え…手、繋いでくれるの…?
…かき氷でべたべたな手でもよければ、って…。
ふふ、それはお互い様だよ。
…あはは、本当にべたべただね、僕達。
こんなふうに誰かと手を繋いだのなんて初めてだから、なんだか忘れられなくなりそう。
ねぇ、このあとどこに行く? どこか行きたいとことかない?
…僕? 僕はねー…。