【女性向けボイス】10番目のカードは正位置を「…一回しか言わないから、ちゃんと聞いててね」



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台本

(走る足音)

…あ、やっと来た。
ちょっとー、四十分の遅刻なんですけどー。
ったく、なにやったら四十分も遅れるかね。寝坊でもした? それともファンタジーな体験でもして、現実世界に帰ってくるのが遅れた?

…なに? 迷子の犬を飼い主のところへ届けてた?
そんな漫画みたいなことある?
ひょっとして、冗談言ってお茶を濁そうとしてない?
悪いけど、僕はその程度で誤魔化されるような甘い人間じゃ――え、本当なの?
ポメラニアンがリードを引きずって歩いてた? あー、それは間違いなく迷子だわ。

…ふーん。まぁ、本当だってんなら、しょうがないけど。君、動物好きだもんね。
…謝らなくてもいいよ。僕のほうこそ、疑って悪かったし。
幸いにも、今日の予定は映画でも予約してる飲食店でもないしね。
ほら、行くよ。

…この手はなにかって?
ここは察しろよ! 手ぇ繋ごうとしてんじゃん!
まったく、肝心なところでおっそろしく鈍感だよね。そのうち詐欺にでも遭うんじゃないかって、心配だよ。

…詐欺に遭ったらどうすればいいかって?
そこは「詐欺に遭わないようにするにはどうすればいい?」だろ!
なんで詐欺に遭う前提なんだよ!

ほんっと心配だよ。詐欺だけじゃなくて、変な男にも引っ掛かりそうだ。
先に言っとくけど、ひとりでいるときに変な男に声かけられたら、真っ先に僕に電話するんだよ。のこのこついていったりしちゃ駄目だからね。

…ほんとにわかってんのかね。
…あれ、雨降ってきた。わ、けっこう雨粒大きいな。
傘持ってる? …持ってないよねぇ。僕も持ってない。天気予報では雨降るなんて言ってなかったし。

とりあえず、そこで雨宿りさせてもらおうか。
(走る足音)
(雨音)
わー、がっつり降ってきちゃったな。
ん? …なんで君が謝んの。この雨、君が降らしてるってわけじゃないでしょ?

これだけ雨降ってきたら、四十分早く来てても結果は変わんないよ。僕も君も、傘持ってないわけだし。
(雨音)
…ねぇ、初めて会ったときもさ、雨降ってたの、覚えてる?

…そうそう、そのときも今みたいに急に雨降ってきて、一緒に雨宿りしてさ。
なかなかやみませんねぇ、なんて話して。
それで別れて、それっきりの他人になるはずだったのに、次の日にバイトに行ったら君が新人として入ってきてさ。

あれ、めちゃくちゃ驚いたよ。君も驚いた顔してたけど。
だってさ、そんな映画やドラマみたいな偶然ってある? 普通に考えて、なかなかないでしょ。
僕も柄にもなく、「運命かも」なんて思っちゃったりしてさ。

…なに、その顔。僕が「運命」って言葉つかうのが、そんなにおかしい?
僕だってねー、たまにはロマンチックなこと考えたりもするんだよ。
そりゃーいつもは甘ったるい恋愛を扱った映画とかドラマを鼻で笑ったりするけど。でも、それとこれとは話が別だよ。

笑うなっつの!
はぁー。そんな雨の中ぐうぜん出会った子とこうやって付き合ってるんだから、不思議な話だよ。変な感じだ。漫画の主人公にでもなった気分。

…ふっ、バイトに入ってきたばっかの頃、君、失敗だらけだったよねぇ。
オーダー間違えるわ、食器割るわ、飲み物こぼすわでさ。
今だから言えるけど、この子長くは続かないなって、正直思ってた。それなりに凹んでるみたいだったし。

でも…。うん…。頑張ってたよね。ミスは多かったけど、それ以上に笑顔も多かった。
呑み込みがいいとは言えなかったけどさ、でも、一生懸命なのは、すごく伝わってきてたよ。

…見てたのかって?
そりゃ、まぁ、多少はね。一応、先輩なわけだしさ。
言っとくけど、先輩として見守ってただけだからね。変な誤解しないでよ。
…どんな誤解かって?

あのねぇ、そういうのはいちいち訊き返すもんじゃないの。
…言われないとわからない?
なら、わからないままでいなさい! …ったく。

…あれ、雨やんできたね。俄雨だったのかな。
ほら、今のうちに行くよ。また雨降ったらたまんないから、どっかで折り畳みの傘でも買っていこ。
(足音)

…なに。
いつから私に惚れてたのかって?
そういうこと訊いちゃうわけ? そういうことをよりによって僕に言わせるわけ?
…さぁ、いつだったかなぁ。忘れちゃったよ。

…なんだよ、その目は。
…嘘じゃないよ。ほんとに忘れちゃったんだ。
…え? 顔見れば嘘か本当かわかるって?
…………。

…ちょっと、こっち来て。
(足音)
…ここなら、誰もいないよね。
…こんなひとけのないとこに連れ込んでどうするつもりだ、って…。
馬鹿、あんな他人の目がいっぱいあるとこで恥ずかしいこと言わせる気かよ。

…………。
はぁー…。…一回しか言わないから、ちゃんと聞いててね。
…………。
僕らしくもないって、自分でもわかってるんだけどさ。

…一目惚れ、だよ。
…………。
…は? もう一回?
言うわけないじゃん! 一回しか言わないって、僕言ったよね?

…嫌です、言いません。もう絶対に言いません!
ほら、行くよ。時間なくなっちゃう。
…だから、言わないってば!
けっこう恥ずかしいんだよ、こういうの!

…私は恥ずかしくないって…。君のことなんか知らないよ!
一回言っただけでもサービスなんだから、感謝してよね!
…こら、腕を引っぱるんじゃない! 子供か!
これ以上渋ると今日のデート代、全部払わせるぞ!

…男としてのプライドはないのかって?
馬鹿野郎、男だって色々大変なんだよ!
ほら、さっさと行くよ。…足を踏ん張るんじゃない!
だから、言わないって何度言わせれば…。もー、本気でおいてくよ!

言わない!
…だから、言わないってば!
…言、わ、な、い!



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