【女性向けボイス】台風とパスタ「お前を振った男のことなんて俺がすぐに忘れさせてやる。」



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台本

あっ、いらっしゃい。

 

お客さんいないねって……こんな嵐の日に来るのは常連のお前ぐらいだよ。

 

俺、今日はもう店閉めようと思ってたんだぜ。

 

おいおい、全身ずぶぬれじゃない。ちょっと待ってろ……ほら、タオル。これだけ風が強いと傘も役にたたなかったようだな。

 

どうしてもこの店特製の手長エビのペペロンチーノが食べたかったって。そう言ってもらえるのはシェフ冥利につきるけど、風邪ひかれたら俺、責任感じるよ。なにもこんな台風の日にこなくても……いつでも来られるだろう。

 

どうしても今日食べたかったって……この台風で店が飛ばされて無くなるとでも思ったのか。

 

先週末もお前食べに来てたよね。

 

バイトしていた頃から数えると、お前何年この店に通ってるんだ。

 

そうか……そんなになるか……。「この店で働かせて下さい! 私、この店のパスタが大好きなんです!」っていきなり言われた日のことを思い出すな……あの時は驚いたなぁ。いきなり見ず知らずの女子大生が厨房にずかずか入ってきてさ。なんだこの女はって思ったけど、あの頃ちょうど人手が足りなくてバイト募集しようかなって考えてたからさ、まぁ、いいかなと思って。やる気だけはありそうだったし。

 

お前、あの頃かわいかったよな~。まだ子供っぽさがぬけなくてさ。あっ、そうそう俺の店で働きだしてからお前、半年で4キロ太ったんだよな。「マスターが作るまかないがおいし過ぎるから」って。

 

おっと、無駄口たたいてる場合じゃないな。ぐずぐずしてると家に帰れなくなるかもしれんからなぁ。その時はこの店に泊まるからいいって……そう言われてもここには布団もなんにもないぞ。

 

まぁ、電車が動かなくなったら俺が家まで送っていってやるよ。今日の深夜には台風直撃だろうなぁ。

 

ほら、はちみつ入りのホットミルクだ。飲めよ。あったまるぞ。すぐ用意するからな、待ってろ。

 

 

 

お待たせ~。今日は他にお客さんがいないんでエビ、サービスしておいたぞ。こんな雨のはげしい日にわざわざ食べにきてくれたんだ。これぐらいしないとな。

 

ふふふっ、相変わらずおいしそうに食べるな。

 

今日はあのサッカー好きの彼氏は一緒じゃないのか?

 

……おいどうした。急に深刻な顔して。

 

……もしかして彼氏とうまくいってないのか?

 

えっ、……ほら、ティッシュ。そんなに泣くなって。

 

……そっか。他に好きな子ができたから別れてくれって。あのサッカー君、いかにもモテそうなイケメンだったもんな。お前から彼氏ですって紹介された時、俺本当びっくりしたよ。

 

でも、正直に本当のことを言ってくれてよかったんじゃないか。二股かけられたり、連絡がとれなくなるよりよっぽどいいぞ。

 

ほら、食え。今日は俺のおごりだ。なんでも好きなものをどんどん食え。

 

……そうかだから今日、台風の中食べにきたんだな。昔からお前、嫌なことがあるとパスタやけ食いしてたな。

 

うんうん、そのうちいいことあるって。新しい彼氏だってすぐできるさ。本当だって。お前

意外と……その……かわいいっていうか……。

 

そんな驚いた顔でじっと見るなよ。……恥ずかしいだろう。

 

考えてもみろ。振られたとはいえ、お前、あんなイケメンと付き合ってたんだぞ。もっと自分に自信を持て。

 

えっ、振られて自信を持てはないだろうって、そうか、言い方が悪かったな……えっと……その、お前は自分が思ってるよりずっとずっと魅力的だということが……その……言いたかったんだ。だから、もう泣くな。

 

ほらお前が大好きなティラミス、食べるか?

 

よしよし、こんなかわいい女振るなんて、あのサッカー君、後で絶対後悔するぞ。

 

えっ、俺……俺はお前のことどう思ってるのかって……。

 

なんで、そんな話に……あーっ、わかった、わかった言うからもう泣くな。

 

えーっと、うん。そうだ、妹かな。かわいい妹的な存在かな。

 

もういいって、なんだよそれ。

 

あーっ、もう正直に言えばいいんだろう。

 

好きだよ……俺はお前のことが好きだ!

 

最初に会った時はまだ子供っぽさが残ってて、ホント妹的な存在だったんだけど、お前、社会人になってからだんだんきれいになっていって……

 

店に彼氏つれてきた時は正直へこんだよ。もう手が届かないところにいっちゃったんだなって。

 

そんな目で見つめるなよ……そんなに見つめられると……俺……(ちゅっ)

 

ごめん……俺、別にふられて気持ちが弱ってるところにつけこむつもりじゃ……

 

でも……もう少し……もう少しだけこのまま抱きしめさせて。

 

なんでもっと早く言ってくれなかったのかって? だってお前彼氏が……えっ、その前! あの時は、その……俺に彼女がいただろう……あの頃お前、俺のこと好きだったのか!

それこそ早く言ってくれれば……。

 

いや……もうそんなことどうでもいい。今こうしていられるんだから。でも、もう離さないよ(ちゅっ)

 

お前を振った男のことなんて俺がすぐに忘れさせてやる。

 

……風の音がすごいな。……もう今日は帰さないよ。いいだろう。

 

おわり

 

 



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